競馬ファンならずとも、その名を一度は耳にしたことがあるだろう。「ブエナビスタ」。スペイン語で「素晴らしい眺め」を意味するこの名前は、まさに彼女にふさわしい。桜花賞、オークスを制し、牝馬二冠を達成。古馬になってからは、天皇賞(秋)、ジャパンカップを制覇するなど、輝かしい戦績を残した名牝、ブエナビスタ。
彼女は、どのようにして生まれ、どのようにして頂点に上り詰めたのか。そして、ターフを去った今、何を残したのか。
今回は、競馬史に燦然と輝く「女王」ブエナビスタの軌跡と、その血脈に迫る。
伝説の始まり – ビワハイジの娘、華麗なるデビュー
2006年3月17日、北海道安平町のノーザンファームで一頭の栗毛の牝馬が誕生した。父は1999年の日本ダービー馬スペシャルウィーク、母は阪神3歳牝馬ステークスを制したビワハイジという良血馬である。この牝馬こそ、後に「ブエナビスタ」と名付けられ、競馬界に旋風を巻き起こすことになる存在だ。
「素晴らしい眺め」という意味を持つこの名前は、母ビワハイジの馬主であった竹園正繼氏が名付けた。彼は、この牝馬が将来、競馬界の頂点から素晴らしい景色を見せてくれることを予感していたのかもしれない。
2008年12月、阪神競馬場での新馬戦でブエナビスタはデビューを迎える。鞍上は安藤勝己騎手。レースでは、後方から徐々に進出し、直線で鋭い末脚を披露。2着馬に3馬身差をつける圧勝劇で、デビュー戦を飾った。
この鮮烈なデビューに、競馬関係者やファンは騒然となった。「怪物が現れた」「歴史的名牝になる」など、彼女への期待感は日に日に高まっていった。
桜の女王、そしてオークス制覇 – 女王への階段を駆け上がる
2009年、ブエナビスタはクラシック路線へと駒を進める。まずは、牝馬クラシック第一冠目となる桜花賞に挑戦。1番人気に支持されたブエナビスタは、レースでも期待に応える走りを見せる。道中は中団に位置し、直線で力強く抜け出すと、2着馬に4馬身差をつける圧勝劇。見事、桜の女王に輝いた。
続く牝馬クラシック二冠目、オークス。ここでもブエナビスタは1番人気に推される。レースは、レッドディザイアとの壮絶な叩き合いとなる。一進一退の攻防が繰り広げられる中、最後はブエナビスタがクビ差で勝利。激闘を制し、オークスを制覇。牝馬二冠を達成した。
この勝利で、ブエナビスタは名実ともに世代最強牝馬の座を確固たるものとした。競馬界は、「牝馬の時代」到来に沸き立った。
「後方一気」の衝撃 – 天皇賞(秋)を制し、最強牝馬へ
オークス制覇後、ブエナビスタは秋華賞を回避し、古馬との対戦を選択。天皇賞(秋)への出走を決める。牝馬にとって、古馬との対戦は大きな壁となる。しかし、ブエナビスタは、その壁を乗り越える。
レースでは、いつものように後方待機策を取る。直線に入ると、馬群の間を縫うように進出し、驚異的な末脚を炸裂させる。そして、ゴール前では、前年の年度代表馬ウオッカをハナ差捉え、見事1着でゴール。
このレースは、ブエナビスタの代名詞となる「後方一気」の戦法が最も輝いたレースとして、今も多くのファンの記憶に刻まれている。
天皇賞(秋)を制したことで、ブエナビスタは世代最強牝馬の枠を超え、最強牝馬の称号を手に入れた。
ジャパンカップ制覇、そして海外への挑戦 – 世界を舞台に
天皇賞(秋)の後は、ジャパンカップに出走。ここでもブエナビスタは、その強さを見せつける。海外の強豪馬を相手に、堂々の逃げ切り勝ち。GⅠレース4勝目を挙げた。
翌年には、ドバイシーマクラシック、凱旋門賞といった海外レースにも挑戦。ドバイでは3着と健闘するも、凱旋門賞では10着と惨敗。海外の壁の高さを痛感させられる結果となった。
しかし、海外挑戦で得た経験は、ブエナビスタをさらに強くした。帰国後に出走した有馬記念では、2着と好走。改めて、その実力を見せつけた。
ターフを去り、母となる – ブエナビスタの血脈
2011年12月25日、有馬記念を最後にブエナビスタは現役を引退。ターフを去る日、多くのファンが中山競馬場に詰めかけ、女王のラストランを見守った。
引退後は、繁殖牝馬として第二の馬生を歩み始める。2013年には、初仔となる牡馬(父ディープインパクト)を出産。その後も、順調に子供たちを産み落としている。
その血統は、多くの関係者から注目を集めている。すでに、産駒の中から重賞レースで活躍する馬も出てきており、今後の活躍が期待される。
ブエナビスタが競馬界に残したもの – 記録と記憶
ブエナビスタは、GⅠレース6勝を含む9勝を挙げ、19戦連続1番人気という記録を樹立。これは、テイエムオペラオーの15戦を上回る、JRA史上最多記録である。
彼女の強さは、数字にも表れている。23戦中9勝、勝率は約39.1%。連対率は約65.2%、複勝率は約73.9%と、非常に高い数字を誇る。
ブエナビスタは、「牝馬の時代」を築いた立役者であり、その後の牝馬の活躍に大きな影響を与えた。彼女の登場により、牝馬のレベルは向上し、牡馬と互角に戦えるようになったと言えるだろう。
永遠のヒロイン – ブエナビスタ伝説は続く
ブエナビスタは、その美しい容姿と圧倒的な強さで、多くのファンを魅了した。彼女のレースは、いつもドラマチックで、見る者を興奮と感動の渦に巻き込んだ。
「後方一気」の末脚は、まさに彼女の真骨頂。レース終盤、後方から一気に追い上げる姿は、多くのファンに希望と勇気を与えた。
ブエナビスタは、すでにターフを去ったが、彼女の伝説は、これからも語り継がれていくだろう。そして、彼女の血を受け継ぐ子供たちが、未来の競馬界を担っていくに違いない。
最後までお読みいただきありがとうございました!